この条文は、例えば「Aという絵画またはBという彫刻を引き渡す」といったように、債権の目的が確定的に一つに定まっているのではなく、数個の給付の中からいずれか一つを選択することによって定まる場合、原則としてその選択権は債務者に属すると定めています。
このような債権を選択債権といいます。



債務者に選択権が認められるのは、一般的に、債務者の方がどちらの給付をすることがより容易であるか、あるいはより有利であるかを知っていることが多いと考えられるからです。

ただし、この原則は任意規定ですので、契約などの当事者間の合意によって、選択権を債権者や第三者に与えることも可能です。


例えば、以下のような場合が考えられます。

  • 債務者に選択権がある場合: 中古車販売契約において、「黒色のセダンまたは白色のSUVのいずれか一台を引き渡す」という合意があった場合、買主(債権者)から特に指定がなければ、売主(債務者)はどちらの車を引き渡すかを選択することができます。
  • 債権者に選択権がある場合: 旅行契約において、「箱根または伊豆への一泊旅行」というプランが提示され、旅行者(債権者)がどちらの旅行先を選ぶことができる場合。
  • 第三者に選択権がある場合: 遺贈において、「甲の所有する絵画、陶器、または彫刻のうち、乙が選んだものを丙に遺贈する」という場合、乙(第三者)がどの財産を遺贈するかを選択する権利を持ちます。


このように、第四百六条は、選択債権における基本的な選択権の所在を定めることで、契約関係を明確にする役割を果たしています。