特に、その不能の原因が選択権を有する者の過失による場合に焦点を当てています。

この条文は、選択債権の目的である複数の給付の中に、選択権を持つ者の過失によって履行不能となったものがある場合、債権は、残りの履行可能なものについて依然として存在すると定めています。


ここで重要なのは、履行不能の原因が選択権を有する者の過失によるものであるという点です。
もし、履行不能が当事者双方の責めに帰すべからざる事由(例えば、天災など)による場合は、別の規定(例えば、民法第五百三十六条の危険負担の原則など)が適用される可能性があります。


具体例で考えてみましょう。

ある売買契約で、売主(選択権者)が「Aという絵画またはBという彫刻を引き渡す」という選択権を持っているとします。

  • ケース1:売主の過失でAの絵画が焼失した場合: この場合、Aの絵画は履行不能となりますが、その原因は選択権者である売主の過失によるものです。したがって、債権は残存するBの彫刻について存在することになり、買主は売主に対してBの彫刻の引渡しを請求することができます。売主は、自己の過失によって選択肢を一つ失ったことになります。

  • ケース2:買主(選択権者)の過失でAの絵画が焼失した場合: もし選択権が買主にあったとすると、買主の過失によってAの絵画が履行不能になった場合、債権は残存するBの彫刻について存在し、買主はBの彫刻の引渡しを受けることができます。買主は、自己の過失によって選択肢を一つ失ったことになります。


このように、第四百十条は、選択権者の過失によって一部の給付が不能になった場合、債権は消滅せず、残りの給付について効力を維持するというルールを定めることで、公平な解決を図ろうとしています。
選択権者の過失によって債務が完全に消滅することを防ぎ、債権者の利益を保護する意味合いがあります。