この条文は、選択が行われた場合、その選択の効力は、債権が発生した時点にさかのぼって生じると定めています。これを選択の遡及効と言います。


例えば、「Aという絵画またはBという彫刻を引き渡す」という選択債権が発生した時点では、まだどちらの給付が行われるかは確定していません。

しかし、その後、債務者が「Aの絵画を引き渡します」という選択をした場合、法律上は、この債権は最初から「Aの絵画を引き渡す」という内容の債権であったものとして扱われることになります。


このように遡及効を認めることで、債権関係が確定した時点からの法律関係を明確にし、法的安定性を図ることができます。


ただし、この遡及効にはただし書が付いており、「第三者の権利を害することはできない」と規定されています。
これは、選択の遡及効によって、選択が行われる前に生じた第三者の権利が不当に侵害されるのを防ぐための例外規定です。



具体例で考えてみましょう。

売主が「Aという土地またはBという土地のいずれかを売却する」という選択権を持つ契約を締結したとします。

  • 契約締結後、売主が選択をする前に、Aの土地に抵当権を設定した場合、その後、売主がBの土地を選択して買主に引き渡したとしても、Aの土地に設定された抵当権は遡って消滅するわけではありません。抵当権者の権利は保護されます。
  • もし、選択の遡及効を無制限に認めると、選択されなかった方の財産について、債権発生から選択までの間に債務者が自由な処分行為を行うことができ、第三者の予期せぬ損害につながる可能性があります。このただし書は、そのような不都合を防ぐ役割を果たします。


このように、第四百十一条は、選択の効力を債権発生時に遡らせることで法律関係を明確化する一方で、第三者の正当な権利を保護するための配慮も行っている条文と言えます。