この条文は、債務不履行によって債権の目的物や権利が損害を受け、債権者がその価額の全部を損害賠償として受け取った場合に、債務者がその物や権利について当然に債権者に代位する、つまり債権者の地位を引き継ぐという効果を定めています。




第四百二十二条
は、「債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する」と規定しています。



この条文のポイントは以下のとおりです。

  • 債権の目的物の損害: 例えば、売買契約の目的である物が、引渡し前に債務者の過失によって破損した場合などです。

  • 権利の損害: 例えば、債務者が債権者に譲渡した特許権が、債務者の行為によって価値を失った場合などです。

  • 価額の全部の支払: 債権者が、損害賠償として、その物や権利の価値の全額を受け取った場合に適用されます。一部の賠償にとどまる場合は、この条文は適用されません。

  • 債務者の当然の代位: 債権者が価額の全部の賠償を受けた時点で、法律上当然に、債務者がその物や権利に関する債権者の地位を引き継ぎます。債権者の特別な意思表示や手続きは不要です。



この規定の趣旨は、債権者が損害賠償によって損害の填補を受けた以上、その損害を受けた物や権利に関する利益は、賠償をした債務者に帰属させるのが公平であるという考えに基づいています。


具体例を挙げると、

  • 物の損害の場合:

    • 中古車を売買する契約を結び、代金も支払われた後、引渡し前に債務者(売主)の不注意でその車が全損してしまったとします。債権者(買主)が売主から損害賠償として車の時価相当額の全額を受け取った場合、その車の残骸(所有権は買主に移転している)に関する権利は、当然に売主に移転します。売主は、その残骸を処分したり、保険金を請求したりする権利を取得します。
  • 権利の損害の場合:

    • あるソフトウェアの著作権を債権者に譲渡する契約を結んだ債務者が、譲渡後、そのソフトウェアの海賊版を作成・販売し、著作権の価値を著しく低下させた場合、債権者が債務者から著作権の価値の全額を損害賠償として受け取ったとします。この場合、その著作権に関する債権者の地位は、当然に債務者に移転します。もっとも、著作権侵害を行った債務者がその権利を再び取得するのは不自然にも思えますが、法律的な地位としては移転すると解釈されます。この点は、具体的な事案に応じて解釈が分かれる可能性もあります。



この条文は、損害賠償後の権利関係を明確にし、紛争の蒸し返しを防ぐ役割を果たします。