この条文は、債務の履行が不能になった原因と同一の原因によって、債務者が債務の目的物の代償となる権利や利益を取得した場合に、債権者がその権利の移転や利益の償還を請求できるという、いわゆる代償請求権について定めています。




第四百二十二条の二は、「債務者が、その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは、債権者は、その受けた損害の額の限度において、債務者に対し、その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる」と規定しています。


この条文のポイントは以下のとおりです。

  • 債務の履行不能: 債務者の責めに帰すべき事由によるか否かを問いません。例えば、目的物が火災で焼失した場合などです。

  • 同一の原因による代償取得: 履行不能となった原因と直接的に結びついて、債務者が本来の目的物の代わりに何らかの権利や利益を取得した場合を指します。典型的な例は、目的物が火災保険に付保されており、債務者が保険金を受け取った場合です。この保険金は、焼失した目的物の「代償」と見なされます。

  • 債権者の損害額の限度: 債権者が請求できるのは、履行不能によって実際に被った損害額の範囲内です。債務者が取得した代償が損害額よりも大きい場合でも、損害額を超える部分については請求できません。

  • 権利の移転または利益の償還請求: 債権者は、債務者が取得した権利そのものの移転を請求するか(例えば、保険金請求権の移転)、または債務者が既に受け取った利益の償還(金銭での返還)を請求することができます。



この規定の趣旨は、債務の履行が不能になった場合でも、債務者がその代償となるものを得ているのであれば、債権者の損害を公平に填補しようという考えに基づいています。


具体例を挙げると、

  • 売買契約の目的物の焼失と保険金: 中古車の売買契約において、引渡し前にその車が債務者(売主)の所有中に火災で焼失し、履行不能になったとします。その車には火災保険がかけられており、債務者が保険金100万円を受け取った場合、債権者(買主)が履行不能によって50万円の損害を被ったとすれば、債権者は債務者に対して、100万円の保険金のうち50万円の償還を請求することができます。もし、債権者の損害額が120万円であれば、請求できるのは100万円全額となります。

  • 賃貸借契約の目的物の滅失と代替物の取得: 建物の賃貸借契約において、賃借人の責めに帰すべき事由なく建物が滅失し、賃貸借契約が終了した場合、賃貸人がその建物の滅失によって得た保険金や、代替となる建物を新たに取得した場合、賃借人は、賃貸借契約の終了によって被った損害の範囲内で、賃貸人に対して保険金の償還や代替建物の賃借権の一部譲渡などを請求できる可能性があります(このケースは少し複雑で、具体的な契約内容や法律解釈に左右される場合があります)。



この条文は、履行不能となった場合の債権者の保護を図る重要な規定です。
債権者は、債務者が予期せぬ利益を得ている場合に、それを自己の損害填補に活用できる可能性があります。