第三款 詐害行為取消権
第一目 詐害行為取消権の要件
債務者が自分の財産を減らして債権者の権利を害するような行為をした場合に、債権者がその行為の効力を否定することを裁判所に請求できる権利について規定しています。
一つずつ詳しく見ていきましょう。
第一項では、詐害行為取消権の基本的な要件を定めています。
- 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。
- これが詐害行為取消権の মূল原則です。債務者が、自分の行為によって債権者の債権回収が困難になることを認識していながら(債権者を害することを知って)、財産を減少させるような行為をした場合、債権者はその行為の取り消しを裁判所に求めることができます。例えば、債務者が借金を返済できなくなるのを避けるために、自分の不動産を不当に安い価格で他人に譲渡するようなケースが考えられます。
- ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
- しかし、その行為によって利益を得た人(受益者、上記の例では不動産を譲り受けた人)が、その行為の時点(不動産の譲渡時)において、その行為が債権者を害することを知らなかった場合(善意の場合)は、原則として取り消しを請求することはできません。これは、善意の第三者を保護するための規定です。
第二項では、詐害行為取消権の対象となる行為を限定しています。
- 前項の規定は、財産権を目的としない行為については、適用しない。
- 詐害行為取消権は、財産権を目的とする行為、つまり、財産の得喪や変更を伴う行為(売買、贈与、担保設定など)にのみ適用されます。例えば、債務者が離婚したり、養子縁組をしたりするような、財産権を直接の目的としない身分行為には適用されません。
第三項では、債権者の債権の成立時期に関する要件を定めています。
- 債権者は、その債権が第一項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
- 債権者は、取り消しを求める詐害行為よりも前に、その債権の発生原因となる法律関係(例えば、金銭消費貸借契約や売買契約など)が存在していた場合にのみ、詐害行為取消請求をすることができます。詐害行為の後になって初めて生じた債権では、原則として詐害行為取消請求はできません。これは、債務者が行為をした時点では、まだ債権者が存在しなかったと考えられるためです。
第四項では、債権者の債権の性質に関する要件を定めています。
- 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。
- もし債権者の債権が、強制執行という手続きによって実現することができない性質のものである場合(例えば、特定の目的物の引き渡しを求める債権で、その目的物が既に存在しない場合など)、詐害行為取消請求をすることはできません。詐害行為を取り消したとしても、債権の回収に繋がらないような場合には、取消しの必要性がないと考えられるためです。
このように、第四百二十四条は、債権者を保護するために、債務者の悪質な財産処分行為に対抗する手段を認める一方で、取引の安全や関係者の利益にも配慮した規定となっています。
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